こんにちは毎朝Coffeeが”Qimaっている”(極まっている)Fanatic三神です。

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本日は先月の2021年2月にはっぴょーされたQima Coffee出資による、Yemenとその他の国々で植わっている生産品種との遺伝的関連性の論文をご紹介したいと思います!

個人的には超面白いんですけど、いやー、大変ニッチなエンターテイメントですなぁ・・・

余りにもマニアックすぎて、取り上げてる日本のコーヒーメディアはほとんど(全く?)ないですね。

この論文の目的は、もちろんイエメンで栽培されているコーヒーの品種についてのリサーチなのですが、実は裏の“真の目的”が存在します。

論文の後半のところに書いてあるのですが、実はイエメンは世界的にもかなり降水量が少なく、さらに日中の寒暖差が大きい国となっています。コーヒーの木にとってかなりストレスが強いエリアなんですね。

最近WCR(World Coffee Research)のTwitterでは温暖化でコーヒーが育たなくなるので、「持続可能な農業のために耐性品種を植えましょう、開発しましょう」という投稿であふれています。

彼らの試算だと将来、最大の生産国であるブラジルの大部分が耕作不適合地になるとされています。

イエメンのコーヒーの木は高温にも低温にも強く、さらに干ばつに耐性がある、とっても強いコーヒーちゃんです。

という事で、厳しい環境に耐えるイエメンのコーヒーの品種を研究することは将来の持続可能なコーヒー栽培を達成するにあたってとても有用な訳です。特定の悪条件に耐性のある遺伝特性を発見できれば、それに合わせて品種を交配したりすることができるからです。

これが裏の“真の目的”です。

・・・・・・・(´∀`*)ウフフ

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それでは重要な前置きは一通りおさらいしたので、実際のリサーチにふれていきたいと思いますー。

Unveiling a unique genetic diversity of cultivated Coffea arabica L. in its main domestication center: Yemen C. Montagnon, A. Mahyoub, W. Solano & F. Sheibani

(訳)コーヒーの栽培化において主要な役割を果たしたイエメンにおける、耕作化されたコフィア・アラビカ・Lの特徴的な遺伝的多様性の解明 【著者】C.モンタニオン、A.マーヨウブ(?)、W.ソラノ、F.シェイバニ

りんく

(・・・・題名なが!!)

ちなみにアラビカ種のコーヒーの木の学名は“Coffea arabica L”というのですが、最後のLはスウェーデンの植物学者Carl Linnaeus(カール・リネアス?)さんから来てるみたいですね。

この論文ではエチオピアの品種、世界的に伝播している品種、そしてイエメンから採取された品種のサンプルを遺伝子分析し、「どういった遺伝的近似性があるか?」がリサーチされました。今回は全部で137種のコーヒー品種が分析されました(全ての品種固有名の記述はされていません)。

下記がそれぞれのエリアグループになります。

【Plant Material Group】

  1. Ethiopian Accessions
  2. Worldwide Cultivars
  3. Yemen Qima Breeding Populations

*“Varity”は品種というざっくりとした区分。“Accessions”は系列とか系譜の事(LineとかLinageに近いかな?)。“Cultivar”は人の手によって耕作に適した選抜(Selection)が施された栽培品種。“Population”は生育品種の個体群(住人)を指します。まあいずれもコーヒーの品種その物を表しますです。

Ethiopian Accessions(エチオピア系統品種:72種)

1966年と1968年に実施されたFAO(国際連合食糧農業機関)とOrstom研究所(オルストム:フランス)が実施した調査で収集されたエチオピアの品種から、今回のリサーチのために72品種が選抜されました。この72品種はWCR(World Coffee Research)とCATIE(Centro Agronomico Tropical de Investigacion y Ensenanza)が中核をなす品種として2014年に定義された品種達の一部です。

WCR

CATIE

Worldwide Cultivars(世界的栽培品種:20種)

エチオピア外で生育している、世界的に伝播したコーヒーの栽培品種から20品種が選抜されました。この20品種にはTypica種やBourbon種の他、イエメンから東アフリカに伝播した品種、イエメンからインドに伝播した品種等、現在の多くの生産国において栽培されている品種が含まれています。

Yemen Qima Breeding Populations(イエメン・キマ・生育品種:45種)

イエメンの主要な産地から、 Qima Coffeeが育種するそれぞれの地区の遺伝的特性を代表する45本のコーヒーの木=45品種が選抜されました。

Qima Coffee

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これら全137品種に対して前稿で紹介したSSR(Simple Sequence Repeat:単純反復配列)分析が用いられ、PCR法によってマーカーを増幅することによって遺伝子分析が試みられました。

そうして得られた結果から、今回の品種群(Cluster)は大きく5つのグループに分類されることが分かったそうです。

 Unveiling a unique genetic diversity of cultivated Coffea arabica L. in its main domestication center: Yemen. Table 1より

・・・・PCRとかクラスターとか、ホント今の世相とマッチした内容ですなぁ・・・

(SRAPやTRAPで分析したらまた違った結果になるのかしら???)

次に5つの品種群を挙げます。

【Genetic Clusters(遺伝的品種群)】

  1. Ethiopian Only Cluster
  2. SL-17 Cluster
  3. Yemen SL-34 Cluster
  4. Yemen Typica-Bourbon Cluster
  5. New-Yemen Cluster

Unveiling a unique genetic diversity of cultivated Coffea arabica L. in its main domestication center: Yemen. Figure 1より

Ethiopia Only Cluster(エチオピア単一品種群)

ほとんどのEthiopian Accessionsの品種が属していることから“Ethiopian Only Cluster”と名づけられました。

Ethiopian Accessionsの内68種と、Worldwide Cultivarの内、Geisha種、Java種、Chiroso種、SL-06種、Mibirizi/T.02702種の5種。計73品種がこの品種群に属することが分かりました。

(SL-06ってどこに植わってるのかね??(;・∀・))

イエメンと遺伝的に完全に分離されている品種群。この品種群の遺伝情報の把握はエチオピアの土着品種群と世界的に伝播している品種群(World Wide Variety)を分ける分水嶺になります。

SL-17 Cluster(SL-17品種群)

Ethiopian Accessionsから4種、Worldwide Cultivarsから4種の計8品種で構成されています。

20世紀に入って東アフリカで選抜された栽培品種、SL-14種、SL-17種、K-7種等がこの品種群に属しています。SL-14種とSL-17種は“干ばつ耐性種”としてケニアで選抜(Selection)された品種にあたりますが、今のところオリジナルの干ばつ耐性種は不明となっています。(ケニアは過去、深刻な干ばつによって収穫量が激減したことがあります)

K-7種、K758種におなじDNA型を持っており、いずれもインドのKent種から発展しています。

またMibirizi/ T.03622種はこの品種群に属します。

SL-17 Clusterは上記の様に数が少ない小さな品種群で、上記のEO(Ethiopian Only)Clusterと同じくイエメンの栽培品種は属していません。この品種群もイエメンとは独立した系統となります。

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(K-7とMibiriziは聞いたことがありますが、ここら辺の品種は聞いたことがない物ばかりですねー。SLの中位(?)ナンバーとかレアですよね(;・∀・))

Yemen SL-34 Cluster(イエメン・SL-34品種群)

Worldwide Cultivarsから2種、Yemen Qima Breeding Populationsから計8種の計10品種で構成されています。

Worldwide Cultivarsからの2種はともに東アフリカで選抜されたSL-09種とSL-34種です。SL-09のオリジンは特定できないのですが、SL-34種の起源はいわゆるイエメンのAden(アデン)に端を発する“フレンチミッション”です(下記のブログにも書きましたがSL-34種はBourbonやTypicaの系譜ではなさそうですね。今回のリサーチでも別の品種群ですし・・・・)。

このYemen SL-34 Clusterはイエメンの系譜をたどることのできる品種群です。

Yemen Typica-Bourbon Cluster(イエメン・ティピカ-ブルボン品種群)

Worldwide Cultivarsから9種、Yemen Qima Breeding Populationsから13種の計22種で構成されています。

Worldwide CultivarsからはBourbon種、Typica種、SL28種(DNA型はCoorg種(?)と一致)、Kent種、KP-263種、KP-532種、Bronze009種、Moka種が含まれます。

(Coorg、KP~とBronze~は聞いたことないなぁ・・・・(;´・ω・))

18世紀以降、世界的に伝播した品種はTypica種とBourbon種の2つしかないのですが、Typica種はイエメンからインドを通ってインドネシアへ、Bourbon種はイエメンから直接ブルボン島(レユニオン島)へ伝わっています。

Kent種とCoorg種は、聖職者であったBaba Budan(ババ・ブーダン)によってインドに初めて持ち込まれた最初の苗にルーツを持ちます。

東アフリカにおいて“モカ”という名称は一般に、かつてイエメンにあった“モカ港”を経由したコーヒー全般に対する名称でしたが、品種で言ういわゆるMoka種は遺伝的変異によってかなり小さい丸い実を付ける品種として今では認知されています(ちびっこ品種♡)。

Yemen Typica-Bourbon Clusterはイエメンにルーツを持ち、世界的に栽培されている代表的な品種達が属する品種群となっています。

New-Yemen Cluster(ニューイエメン品種群)

Yemen Qima Breeding Populationsから24種。これらのみで構成される品種群です。

この品種群にはこれまで上げてきたいかなる品種も近似性を顕すことなく、遺伝的に独立したグループとなっています。

現段階ではイエメンのみに存在する遺伝的特性をもった品種群であると考えられます。

考察

エチオピアからもたらされたコーヒーはイエメンを経由して世界的に伝播しているのですが、世界的に栽培されているいわゆるWorldwide Cultivarsとイエメンに栽培されている品種との間の詳細な遺伝的関連性がいまだに不明となっています。しかし今回のリサーチおいて、上記の通りイエメンの品種に遺伝的近似性を持つ品種群が3つあることが分かりました。

  • Yemen SL-34
  • Yemen Typica-Bourbon
  • New-Yemen

これらの品種群はそれぞれ遺伝学的に独立した品種群達となっています。

いずれもイエメンに関連性を持ちながら、遺伝的に異なる品種群を明確に確立していることから、次の3つの仮説が導き出されるようです。(どうしてイエメンの品種群系統が複数に別れるのか?ってことね)

  1. 異なる狭いレンジの遺伝的基礎をもった複数種の品種グループがエチオピアからイエメンに伝播し、それぞれの地域の中で最も適合性の高かった品種グループの品種選抜(Selection)が時間の流れとともに進んだ
  2. 広いレンジの遺伝的基礎を持つ単一、もしくは複数の品種グループが伝播し、イエメンにおいてそれらの品種選抜(Selection)が進んで、今日得られているような遺伝的に異なる品種群を確立した
  3. 世界中で品種選抜(Section)された品種がイエメンに再伝播した

なんだかわかりやすいような?わかりにくい仮説ですが、つまりは・・・・

  1. 遺伝的に異なった複数の品種がイエメンのそれぞれのエリアで別々に発展(Selection )したため、複数の品種群(Cluster)が存在する・・・・または、
  2. もともと遺伝的に広い特性(変異しやすい?)をもった単一品種、もしくは複数の品種がイエメンで変異し今日のような品種群(Cluster)の多様性を獲得した・・・・または、
  3. 現在世界的に栽培されている品種(Worldwide Cultivar)が逆輸入される形でイエメンに再伝播し(子孫が戻ってきた)、それによって品種群(Cluster)の多様性をを獲得した

・・・・ってことかしら???(/ω\)

今回のリサーチによるとこの3つの内の①か②のいずれか。もしくは両方の可能性があるとの事です。

こうして300年前から今日に至るまでもイエメンはコーヒーの遺伝的多様性にかなりあふれている事が分かりました。また今回発見されたNew-Yemen ClusterはWorldwide Cultivarsと遺伝的に全く近似性がないことから、こうした品種はイエメンから外に持ち出されたが失われてしまったか、途中で対抗選抜されてしまったか(やっぱ育てるのやーめっぴ)、そもそもイエメンから外に伝播しなかったか・・・。いずれか、もしくは複数の要因で独自性を保っているのではないかと推測されます。

また現在イエメンの農家によって名づけられた栽培品種に対する名称は、今回のような遺伝的品種群とは関連性がないことが分かっています。

農家による栽培品種の名称化は主に外見の違いによって生まれたもので、遺伝的な裏付けに基づいたものではありません

例えば、背の高いコーヒーの木にはUdaini(ウダイニ)、Jufaini(ジュファイニ)、Jadi(ジャディー)という名付けがされており、一方で背の低いコンパクトな木にはDawairi(ダワイリ)、 Tufahi(トゥファヒ)、Sheibani(シェイバニ)等となっています。

こうした現地での名称と実際のDNA遺伝型が食い違っていることは、すでに別の研究でも明らかにされています。

コーヒーのオリジンとその伝播の歴史について

もちろん今回分析されたEthiopian Accessionsの品種72種は、エチオピアにある全てのコーヒーの遺伝的特性をカバーしている訳ではなく、あくまで50年前にFAOやOrstomによって得られた品種の遺伝情報となっています。ゆえに、南スーダン周辺やHarrarge(ハラルゲ/ハラー)地区の品種を含んでいません

(Rume Sudan種は分析しなかったのかな?)

C. arabicaの伝播は南西エチオピア/南スーダンから西への移動が発生したことが分かっていますが、アラビカコーヒーはグレートリフト(Great Rift Valley)の東側に渡った後、Harrarge地区に到達し、そこからイエメンに渡り、次いで世界中に伝播することになりました。

なお同じEthiopia Accessionsでもグレートリフトの西側と東側では遺伝的に異なっており、野生のC. arabivcaの故郷はグレートリフトの東側なのか、はたまた西側の森なのかは、いまだ謎のままになっています。

こうしたエチオピア全土に広まった品種群であるEthiopian Accessionsには3つの遺伝系統があり、

  • Jimma-Bonga
  • Sheka
  • Harrar-Yemen

以上の様に分かれています。

この内、“Jimma-Bonga(ジマ-ボンガ)”グループと“Sheka(シェカ)”グループはエチオピアの西側にルーツを持ちます(テロワール編で触れたエリアですねー)。

対してHarrar-Yemenグループはイエメンの品種や、世界的に伝播した品種であるWorldwide Cultivarsにより緊密な関係性があることが判明しています。

またWorldwide Cultivarsの内、Ethiopian Only Clusterに属ずるGeisha種やJava種はイエメンを経由しないで伝播した類になります。最近コロンビアで注目を浴びたChiroso種もイエメンを経由しないで=“Escapeして”コロンビアに来ていると考えられます(Wush Wush種なんかもそうですかね)。

こうしたことから、コーヒーの伝播については以下の3つのルートがあると導き出されました。

  • Yemen-India route(イエメン~インド経由)
  • Yemen-Bourbon Island route(イエメン~ブルボン島経由)
  • ‘‘Escapee’’ route(“脱走”経由)

(イエメン経由以外は脱走者あつかいなんですね???(笑))

・・・・経路的には今まで通りって感じですが、遺伝的裏付けがとれたってことっすね。

まとめ

という事で今回分析されたエチオピアの固有種たち=Ethiopian Accessionsは“Ethiopian Only Cluster”と“SL-17 Cluster”に別れ、見事にイエメンに関連する品種達と遺伝的な共通点が無いことが分かりました。

以前エチオピアの品種編でも書きましたが、いわゆるTypica種やBourbon種はもうエチオピアに存在しないことになっています。エチオピアで言われているのはあくまで新芽の色がブロンズでグレートリフト東側に育成=Typica Type。グリーンでグレートリフト西側育成=Bourbon Type。という大まかなくくりでしかないのです。

しかしながらHarrarge(ハラルゲ/ハラー)地方の品種の解析はまだ進んでいないので、今後、エチオピア東部のイエメンに近いエリアの品種の中からTypica種やBourbon種のルーツが発見されたり、Ethiopian AccessionsとYemen Cultivarsとの間のミッシングリンクが明らかになる可能性もありますね!!

同じ様に今回のQimaのプロジェクトで収集された45種以外にも今後、“Ethiopian Only Cluster”や“SL-17 Cluster”に属するイエメンの品種が出てくる可能性もあります。

いずれにしろ今回特定された“New-Yemen Cluster”の24種については、今までに認知されていなかった、新たな遺伝系統であることが判明したことがとてつもない快挙です。古くて新しい発見ってやつですね!!(温故知新・・・・・)

この遺伝系統は実は伝播したけど、イエメンを出なかったか、または途中で途絶えてしまったのか・・・?謎は深まるものの、今後の研究で更なる事実が明らかになっていくでしょうね・・・・。

いやー、これから楽しみな研究分野ですねー。Geishaを超えるインパクトが現れるかも!?

イエメンこそまさに品種のラストフロンティア!!(^○^)

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こんなところかな?

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ひろげよう!!コーヒーのLove Clusterを!!(^○^)

ただいま品種キャンペーン中!!♡(意味不)

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Yeah! Man!?(いえー!?めーん!?・・・・)