こんにちは!!Coffee Fanatic三神です!!
・・・・地獄のような出版企画がやっとひと段落(まだ終わってないけど)したので、ブログの方に帰ってきました。
ネタはいっぱい貯めていたのですが、何分、ブログに起こすガッツがない状態だったので、しばらく更新が止まっていましたが、ようやっと落ち着いてきたので、ここいらでテロワールの記事を上げていきたいと思います!!
(出版執筆過程で、イエメン、タンザニア、インドなどのテロワール情報を作成しました(;´∀`))
ということでまずはコーヒーの第二の故郷イエメンを取り上げて行きます!!
イエメンの棚田①
(画像引用)Yemen, Rod Waddington
https://www.flickr.com/photos/rod_waddington/9815548576
イエメンはアラビカ・コーヒーにおける第二の故郷と言える生産国で、7世紀にはコーヒーが伝来して耕作がはじまったとされています。系統としてはエチオピア南部、現在のゲデオ県やグジ県(Gedeo、Guji)の野生種が北部のハラー地方に伝播した後、海を渡って渡来した可能性を示唆する研究が発表されています。ここら辺は今を時めく、モンタニョン博士による品種研究で明らかになってきている分野ですね!
(参考)Deciphering Early Movements and Domestication of Coffea arabica through a Comprehensive Genetic Diversity Study Covering Ethiopia and Yemen
https://www.researchgate.net/publication/366441208_Deciphering_Early_Movements_and_Domestication_of_Coffea_arabica_through_a_Comprehensive_Genetic_Diversity_Study_Covering_Ethiopia_and_Yemen
コーヒーはイエメンの門外不出の農作物であったのですが、西暦1600年代以、様々な国で植えられることととなり、世界需給に対する影響度は低下していきました。世界的な商業用の伝播では、特にオランダの植民地政策が大きな役割を果たし、アジア、南アメリカに栽培が拡大されていった歴史があります(あんまり明るい歴史ではないですがね)。エチオピアとイエメンのコーヒーはタイズ県にあったモカ港(MochaとかMokkaとかMoccaとかいろいろ表記がある・・・)から世界に出港していったため、この両国のコーヒーは“モカ”という通称で流通することが定着しました。オランダの船はモカ港とインドネシアのジャワ島を回遊していたので、いつしかジャワのコーヒーをモカのコーヒーに混ぜる風習が始まります(ヨーロッパでのコーヒー需要が増えたのだと思います)これが最古のブレンドと呼ばれる“モカジャバ”の謂れですね。現在はAden県のアデン港が使用されています。
1600年代のオランダは、当時、海上帝国(ブイブイいわしてた)として、世界の覇権を握っていました。ちなみにフランスの重要なワイン産地、ボルドー地方の世界的な興隆はオランダ商人たちによるワイン貿易への大規模進出が主な事由となっています(それまではイギリス向けが主体だった)。
現代に目を向けると2022年度の生産量は124,000袋=約6,000MT(1袋=60kg換算)ですが、生産国としてはかなり少なく、その生産量は年々減少傾向にあります。イエメンでは渇水の問題があり、井戸水の枯渇の懸念が長らく解消されていません。そのため、水資源が貴重であることからウオッシュド(水洗式)などの生産処理や、水路によるサイフォンを利用した選別などが行えない状態です! ;つД`)ウワアア
・・・・・それって農業継続して大丈夫なのかちょっと疑問になりますが、まあ、大丈夫みたいですね。というのも毎年水が枯渇すると言われているのに、なんだかんだ言ってコーヒーはしっかり出港されているんですよねー(戦争してても出荷はされる)。ちなみに私は商社時代お客さんに「マタリはもうヤバイという」話をしていましたが、結局大丈夫でした。・・・ということで今の紅海の状況もヤバイ(イラン、フーシ派のコンテナ船襲撃)と言われますが、大丈夫だと思います。なぜならそれが滞ると国の経済に打撃を与えるので、国難があろうが戦争があろうが、絶対コーヒーは出荷されます(・ω・)ノ
・・・・・・ちょっと脱線したかな?
ということで品質向上や新しい生産処理への取り組みが困難である生産国ではあるものの、近年では伝統的なナチュラル(非水洗式)を発展させ、嫌気発酵やアルケミー・プロセス(Alchemy Process:錬金術)と呼ばれる高圧化で温度調整を行った特殊嫌気発酵など、品質向上における新たな潮流も現れ始めています。
肝心のグレーディングですが、国が定める公的な輸出規格が存在しておらず(たぶん・・・)、コーヒーのロットは生産地域の名を関することが通例です。Matari、Bani Mattar、Matari No.9、などの一般的な銘柄はいずれもサナア県(Sanaa)のバニ・マタール地区(Bani Mattar )産のコーヒーですが、この他にも企業体などが独自に実施している等級なども存在しています。
ちなみに、No.9はやや低位のイエメンで、割高なイエメンの中では価格が安いです。このためエチオピアのHarrar(ハラー)が化けて流通しているんじゃないかとも噂された(まんまロングベリー形状のこともある)こともありますね(笑)。まあ本当のところはわかりませんが、味もまんまハラーに近い気がします。(;´∀`)ウケケ
イエメンは長い事政情が安定していない上に生産エリアがことごとく反米地域ので、なかなか発展が進みませんでしたが、最近ではQimaコーヒーの様に外資が絡むことで生産者名を関したマイクロロットが整備されてきています(それでもまだカオスだけど)。各地区(District)に属する村やコミュニティまでのトレーサビリティが徐々に確立されてきており、より多様なテロワールを知ることが可能になってきました。
国内流通
イエメンにおけるコーヒーの栽培は他国と異なる特徴があり、山の斜面に直接コーヒーの木を植えるのではなく、棚田を形成して階段状にコーヒーの農地を形成する方式をとっています。こうした風景はアジア圏での米の棚田栽培にとてもよく似ています(もうぱっと見はほぼ同じ)。生産者世帯は規模が小さく、ほとんどが家族経営で農地は広くて1~2ha程度、通常はもっと小さい農地を各生産世帯が所有しています。なお、女性の就農割合が75%とかなり高いのも特徴です。アフリカやアジアでは女性の方がよく働いていますね。チェリーをウエットミルに運んでいるのも女性が多いですし、ドライミルでのハンドピックはほぼ100%女性です。
(参考)Coffee Arabica – The identity of Yemen, Coffee Business Intelligence
https://coffeebi.com/2020/09/22/coffee-arabica-the-identity-of-yemen/
・・・え?男?(‘Д’)
・・・・・アフリカの場合は路上をブラブラしていることが多いですね。男性は外の職場で働いていることが多いですね。アフリカ/アラブは極小規模農家がほとんどで、農場=自宅になります。女性が自宅に近い仕事、男性が外に勤めるパターンが多いと思います。
Haraz山のイエメンの棚田②
(画像引用)Haraz Mtns, Rod Waddington
https://www.flickr.com/photos/rod_waddington/45809167635
生産者は収穫したチェリーを自前で乾燥させ、農協や集果業者、又は売買所などにこうしたドライ・チェリーを販売します。“ミル”という概念がほぼなく、自家製乾燥チェリーが主体になるので、クオリティーが安定しません。渇水基調なので欠点豆が多く、自家乾燥なので、複数農家の集積となると品質にムラが出ます。ちょっと乾燥させ過ぎの気があって、生豆の含水率は場合によっては8%を下回って6%程度になることもあるので、もろくなって生豆が割れたりします(きゃあ)。
焙煎後のイエメンは真面目にハンドピックすると半分はなくなってしまうので(あははははは)、まあ単純にコスパが二倍くらい悪くなりますね(死)。高額ロットでも、枯れていたり麻袋臭がついていることが多いので、メインストリームのイエメンをきちんと知っていないと、マイクロロットでこういった風味をポジティブだと錯覚する恐れがあります。気を付けたいところですねー。
イエメンに限らず、アラブ/アフリカの生産国では農家の単位がとても小さく、生産者達が暮らしているコミュニティがその地を代表とするコーヒーの風味特性を表します。よってこういったコミュニティ単位によるテロワールが、そのまま中規模の農園のようなものを形成しているとみなすことができます。最近の銘柄は生産者名で流通することが多くなってきましたが、生産単位が小さいのでわざわざ自分の農地に仰々しい名前を付ける風習がありません。ということで、基本的には地方や村などの広域地域名(Bani MattarとかHaraaz)がロット名を関することが多いです。
栽培品種はイエメンに古くからある在来種が主になっており、現在世界各国で栽培されているコーヒーの品種とは異なった独自の遺伝系統を保持しています。現在これらの品種群は総じてイエメニア(Yemenia)と呼称されており、今後の研究よって新たな品種名を関した栽培品種の分類が進んでいくと考えられます。また、伝統的に栽培されている品種については形態学上(Morphology)の分類がなされています。例えば背の高いコーヒーの木にはウダイニ(Udaini)、ジュファイニ(Jufaini)、ジャディー(Jadi)という名付けがなされており、一方で背の低いコンパクトな木にはダワイリ(Dawairi)、トゥファヒ(Tufahi)、シェイバニ(Sheibani)といった名が与えられています。しかしこれらの名称区分は遺伝的整合性を欠いているため、別のエリアで同じ名前の木が栽培されていたとしても、実際は異なる品種である可能性が高くなっています(ありま・・・)。
(参考)Unveiling a unique genetic diversity of cultivated Coffea arabica L. in its main domestication center: Yemen C. Montagnon, A. Mahyoub, W. Solano & F. Sheibani
https://link.springer.com/article/10.1007/s10722-021-01139-y
(参考)コーヒー品種の樹海をさまよう!! 其の七 Qimaの品種リサーチ“Yemen”編Part②
イエメンのテロワール
イエメンの生産県はサナア県、ザマール県、イッブ県、タイズ県などがあり、コーヒー産地は国の西側、紅海に沿って形成される山脈地帯に分布しています。イエメンで最も有名な生産県は北部のサヌア県であり、バニ・マタール(Bani Mattar:いわゆるモカ・マタリ)やハラズ地方(Haraaz)、バニ・イスマイリ(Bani Ismaili)といった地区名や村名がコーヒーの銘柄として流通しています。味わいはナチュラルらしい果肉香とベリーの風味にしっかりした甘さが感じられ、イエメンならではの甘いスパイスの香りが特徴です。また伝統的に麻袋の香り移りが発生することが多く、こういった麻袋香(Baggy:バギー)もイエメンコーヒーの特徴の一つとも言えます。
生産者名で流通すると言っても、地域名が重要になるので、今回のお手製地図は国全体でまとめてみました。まずはそれぞれの生産県のエリア分布をざっと紹介します。
Sanaa Governorate(サナア県)
真ん中の空洞はサナア市になるのですが、行政的に独立しており、サナア県の管轄外となります。・・・でもサナア県の官庁はサナア市にあるみたいです(どういうこっちゃ?(・ω・)ノ)。なんかややこしいですね。産地の標高は2,000mを超えるところもあり、コーヒーに適したテロワールを有しています。
サナア県は元祖マタリのBani Mattar地区(バニ・マタール)を始め、いわゆるハラーズ地方と呼ばれる Manakhah地区(マナカー)、そして近年品質評価の高いAl Haymah Ad Dakhiliyah地区(アル・ハイマ・アドゥ・ダカリージア)やAl Haymah Al Kharijiyah地区(アル・ハイマ・アル・カリージア) などを擁し、イエメンの最も代表的なコーヒーの産地として名高いエリアです。やっぱり“モカ・マタリ”と言えばサナア県ですね!
下記はサアナ県内のもう少し細かい地図ですが、ちらほらと有名な地区が見受けられますね!
(画像引用)Yemen Administrative Map
https://data.humdata.org/showcase/yemen-admin-map
Dhamar Governorate (ザマール県)
ザマールの県名はサバア王国のザマール・アリ・ヤフベル王に由来しており、かつてはイスラム文化と化学の中心地であったようです。
近年のプライベートオークションなどではAnns地区(アンズ)のロットが入賞するようになってきたため、この地域も知名度が上がってきました。生産地特性は北のサナア県に近似している様に思われます。
Ibb Governorate (イッブ県)
ザマール県と南に接するイエメン西部の県です。県都であるイッブ市は土壌が肥沃で緑が多く、渇水が問題視される同国においでは珍しく農業が盛んなエリアです。市の人口の70%近くが農業に従事しているようです。
Al Qafr(アル・カフール)地区のオークションでの入手がみられるようになってきています。水分はやはりコーヒーの育成や風味にとってとても重要なので、水分が満ち足りることでいずれ、本当のポテンシャルを発揮したイエメンのロットに出会えるかもしれませんね!
Ta‘izz Governorate (タイズ県)
かつては北イエメン領だったようで、内陸の産地は標高3,000mを超える地域があります。さすがに3,000mだとコーヒーが育たないでしょうが、高い方に余力があるので栽培条件としては期待が持てそうですね!今後が楽しみです。
このタイズ県には歴史的に重要な、かの“モカ港”があった県でもあります。
それぞれの生産県の位置関係♡
(引用)Vernacular Names and Genetics of Cultivated Coffee (Coffea arabica) in Yemen
https://www.researchgate.net/publication/362844088_Vernacular_Names_and_Genetics_of_Cultivated_Coffee_Coffea_arabica_in_Yemen
恒例のファナティック地図
なおイエメンの行政区分は以下の通りです、一番下はいわゆる村なのですが、イスラム圏は英語圏ではないため、いまいち的確な英語名がわかりません・・・。とりあえずハムレット(村落/集落)にしてみましたー。
【行政区分】
- Governorate(県)
- District(地区)
- Hamlet(地方自治体/村)
- District(地区)
- Sanaa Governorate(サナア県)
- Bani Matar District(バニ・マタール地区)
- Manakhah District (Haraaz)(マナカー地区(ハラズ地方))
- Haraz Mountain(ハラズ・マウンテン)
- Jibal Haraz(ジバール・ハラズ)
- Bayt Shimran(ベイト・シマラン)
- Banī Ismā‘īl(バニ・イスマイリ)
- Hutayb(Akwait Hitzb?)(ハタイブ)
- Sanaf(サナフ)
- Sa’fan District (Haraaz)(サファン地区(ハラズ地方))
- Al Jawwi (Al Taweel? Al Tawi?)(アル・ジャウィー)
- Al Haymah Ad Dakhiliyah District(アル・ハイマ・アドゥ・ダカリージヤ地区)
- Al’Ayn (Hejarat Alayn?)(アライン)
- Al Mahjir(アル・マハジール)
- Al-Yaʽar(Al Riwaa?)(アル・イワー)
- Al Haymah Al Kharijiyah District(アル・ハイマ・アル・カリージヤ地区)
- Al Jid’an(アル・ジダーン)
- Jabal Bayt Malah(Bait Alar?)(ジャバール・バイト・マラー)
- Ray’an (Rayyan)(ライアン)
- Dhamar Governorate(ザマール県)
- Anss District(アンズ地区)
- Bani Ofayr(バニ・オファイル)
- Anss District(アンズ地区)
- Ibb Governorate(イッブ県)
- Al Qafr District(アル・カフール地区)
- Ba’dan District(バダン地区)
- Ta‘izz Governorate(タイズ県)
- Sabir Al Mawadim District(サビル・アル・マワディム地区)
- Mocha Port(モカ港)
- Aden Governorate(アデン県)
- Aden Port(アデン港)
・・・・・・・
ちょっと現地語の表記が統一されておらず(イスラム文化圏だからね)、しかも発音からスペルをあてがっているようで、地図に記載されている地名と品評会などでの表記名が合致しません。・・・;つД`)モウムリ・・・・。とりあえず発音のニュアンスから、頑張ってそれに近しい地名をピックアップしました。“?”がついているのが整合性が担保できていないアヤシイ地区です(笑)。
なお、色々あった我らがライアン・ミルもライアン地区にあります。
2019年に始まったイエメン初の国内品評会であるQima Coffee PCA(現Best of Yemen)ではより小さなテロワールに焦点が当たり、小規模生産者の名前を関したコーヒーロットなども流通するようになってきました!同国で最も偉大なテロワールであるサナア県ではアル・ハイマ・アル・カリージヤ地区(Al Haymah Al Kharijiyah)、アル・ハイマ・アドゥ・ダカリージヤ地区Al (Haymah Ad Dakhiliya)地区、そしてハラズ地方(Haraaz)であるマナカー地区(Manakhah)の3つが多くの入賞実績を誇っています。・・・・ハラズ地区というのは存在しないのでHaraazは正式な行政区画ではなく、地方名の俗称のようですね。
(参考)Best of Yemen 2023
https://allianceforcoffeeexcellence.org/best-of-yemen-2023/
品評会での出品ロットや特殊な処理を施したロットでは従来のナチュラルだけではなく、様々な生産処理が試みられているケースも増えています。こうしたコーヒーはイエメンらしさを保持しながらも、よりフルーティーで乳酸のようなニュアンスを表しており、新たなイエメンコーヒーの魅力が台頭してきています。またサナア県以外にもザマール県のアンズ地区(Anns)地区や、イッブ県のアル・カフール地区(Al Quafr)等に代表される南側のテロワールのコーヒーにも入賞実績があり、更なる多様性の発見に今後の期待も高まっていますね。
というところのイエメンでしたー。
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モカ飲もっか(*´▽`*)♡
いえ!めんどくさいです!(Yemen・・・・)
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学生時代の誘い文句はいつだって不発だぜ!!
べっぽ。