こんにちはCoffee Exchanger Fanatic三神です!

今日はちょっと趣向を変えて昔話をしたいと思います。一自家焙煎屋のRDCではありますが、コーヒーの世界はマクロ経済でつながっていて、スペシャルティーだろうが、コモディティーだろうが、自家焙煎だろうが、大規模ロースターだろうが、国と国の関係や経済でほんろうされる運命にあるのは変わらんのですね。

ということでそういったお話。

それでは行ってみよう!!

*ECXや残留農薬問題は様々な要因が重なっているので、正確な見解と言うものがないです。仕組みが複雑でエチオピアの輸出業者も日本側も正確な情報の把握に大変苦労しました。ところどころ不正確な箇所があるかもしれません。なのでここでの見解はファナティックが商社として川上の流通からに見た視点を紹介しています。・・・・・あくまで参考程度にお考え下さいね♡

悪夢のポジティブリスト制度施行

2006年5月に日本国においてコーヒーの輸入における残留農薬の基準を一律で儲ける制度が施工されました。ポジティブリスト制度です。

こうした残留農薬の基準を設けた背景には当時の中国から輸入された毒餃子、毒野菜問題があったことが推察されます。適切な農薬コントロールがなされていない生産国の生鮮食品に対して厳格に対処することで、こうした危険食品を水際で食い止める必要に迫られていました。

ついては自国の国民を守るという点においては国として当然の措置でした。

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しかし・・・・・

コーヒーに適用された基準は大変厳しく、実態とかけ離れた数値が提案されていました。その内容は簡単に言うと、頻繁に流通している農薬以外、例えばマイナーな農薬や、新しく開発された農薬等をリストアップ(250種)して、それらに対して一律0.01ppmの残留農薬基準を適用するというものでした。

分かっている人にとってはこの数値が大変厳しく現実的でない数値であることは一目瞭然でした。しかもコーヒーは焙煎するので、農薬は揮発し残らないことが実証されています。

しかし輸入時に原料とは言え、生の食品と言えるコーヒーの生豆にはこうした制度が適用されることとなってしまいました。

おそらく国際基準であるCodexを参考したのかもしれませんが、残留農薬の基準はそれよりもはるかに厳しいという訳です。まあ厳しい方が安全でしょ?って感じです。

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しかし・・・・・

実はこの基準がはちゃめちゃだったのです・・・。

詳しくは割愛しますが、エチオピアのコーヒーから違反事例として検出されたリンデン、クロルデン、ヘプタクロルはADI(Acceptable Daily Intake=毎日摂取したと時の健康に影響の出る、一日の摂取量目安)換算すると実は健康に問題ないレベルだったのです。(/・ω・)/あれ?

科学的に問題ないにも関わらず日本政府はこのポジティブ制度を施行してしまいました。

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そうして一番の犠牲になったのがエチオピアでした。

エチオピアのコーヒーはフォレスト、セミフォレストコーヒーが多いので、大体無農薬なのですが、麻袋が汚染されていた(国内の流通で使いまわしていた)ため残留農薬が検出されたという風に考えられています。

DDTも検出されたので、公衆衛生用に散布された薬剤が使いまわしの麻袋に移り、汚染が進行したとみられています。数年後こうしたことが判明し中古麻袋は滅却することが決まりました。が、時すでに遅し・・・でした。

2006年のエチオピアの生産量は約260,000MT=約430万袋。同年の輸出量は約270万袋でした。

2006年の日本のエチオピアコーヒーの輸入量は40,000MT=約66万袋。単一国(EUを除く)では首位でした。

2006年の施行後、違反事例が勃発し、検査命令に移行。2008年には日本の輸入量が完全に0になりました・・・・。

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40,000MT→0MT (/ω\)

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この影響がどうで出るかと言うと・・・・

エチオピアの本当のピンチ

上記の通り、エチオピアは最大の売り手を失った訳ですが、当時GDPの65%程度をコーヒーの輸出に依存してたのでその25%に近いコーヒーの売り上げのはしごを外された形になってしまいました。

年々経済成長を続けていたエチオピア。GDPはこの事件があっても伸び続けましたが、重要な問題がありました。それが・・・。

外貨が足りない!!

基本的に資源が乏しく、コーヒーやゴマくらいしか輸出産業がない国です。またインフラ投資をしていたので、慢性的に外貨が不足していたのです。この外貨不足に日本がとどめを刺しました。

ファナティックは当時のことを覚えていますが、2009年の商社の報告でエチオピアの外貨がなさ過ぎて、コーラ瓶の蓋が買えない(輸入できない)ほど外貨(ドル)がないという事態でした。

これはホントにまずい・・・・。

日本も同じですが、資源が乏しい国は、外国から食品や、金属、石油、等生活やインフラ運営に必要な資源を輸入しなくてはなりません。当然世界の基軸通貨は米ドルなので、ドルを持たないと購入ができません。なので外貨は必要なのです。

・・・・・・・

ところで皆さんアメリカが良くやる経済制裁って具体的に何をするか知っていますか?

・・・・・・・

答えは“米ドルの兌換を禁止する”ことです。

上記の通り、国際基軸通貨は米ドルなので、世界の貿易や資産比率がかなりの割合で米ドルに集中しています。コーヒーの取引もドル建てで行われています。なので米ドルがないとお買い物が全くできなくなる訳ですね。

ちなみに当時エチオピアは外貨輸入の90%近くをコーヒーの輸出に頼っていました。

なのでエチオピアの場合は日本のおかげ外貨が足りなくなりで自動的に経済制裁を食らったような図式になってしまったのです。

ECXの発動

こうして外貨不足になってしまったエチオピアですが、背水の陣を敷きます。それがECX(Ethiopian Commodity Exchange)です。

設立の趣旨はチェリー買い付け価格の透明性とそれによる富の適正分配でした。今まで農協や集荷業者達は生産者から農協などがチェリーを買い取っていたのですが、いわゆる取引市場と言うものがなかったため、きちんとした価格透明性がなかったんですね。いうなればその日の農協や業者の言いなりの価格でチェリーを売っていたわけです。

そうした生産者の不利益を回避するために政府がチェリー集積所兼精製所をエチオピアの9つの個所に設立しました。ここでニューヨーク相場に連動し、各限月に対応したチェリー買い付け価格を提示することで、生産者に価格透明性を提供したのです。

当時生産者はこのECXか、政府に認可されたいくつかの農協連合(Cooperative Union)のいずれかにチェリーを売ることができました(・・・・でもECX稼働当初はかなりECXに納入されたんじゃないかな?)。農協連合はECX外でチェリーを購入し輸出させることができますが、グレーディングはECXで行われるので、完全に逸脱することはできません。

*生産者はすぐに現金が欲しい場合にはチェリーコレクターにチェリーを販売することもできますが、これはECX扱いになったでしょうね・・・。

ということでエチオピア全域のコーヒー(農協連合外)は9つの集積場Yirgachefe、Sidama、Jimma、Harar、Limmu、Kaffa、Tepi、Bebeka、Lekemptiに紐付けられ、それぞれの“エリア”のコーヒーとしてグレーニングされロットが形成されることになりました。そして小さな生産区域ロットは消滅し、集積されたチェリーを混合した先入れ先出しのロットがグレードに分けて流通することになったのです。

全部混ぜられちゃうんですね。なのでスペック上は上記の9つのエリアの名前でそれぞれグレードが1~4(ナチュラルは5まである)に分けられてそれ以上トレーサビリティーが辿れない状態になったわけです。

輸出業者はこのエリアから提示されたロットのサンプルを手に入れて、消費国へオファーします。そして契約が成立したら販売することになるのですが、契約したら所定日数以内に船積みすることが義務付けられました(船積み完了後に消費国から支払いがなされる)。もしこれに違反すると、なんと!!輸出者免許停止!!(; ・`д・´)

輸出者の過度の在庫を許さない、むちゃくちゃ厳しいルールが課せられました。(うほぅ!)

当時ワタルと取引のあった輸出業者(まあモプラコのエレアナさんなんだけど)は本当に困っていました。オファーサンプルは混ぜられた後にしか出せないし、大まかに何番目かのロットに混ざっている推測はできるが、正確なことは言えないし、オファーをしたらすぐに船積みまで行わないと輸出免許が停止されるし。ホントにもう・・・・大変な悲壮感にみちた連絡が来てましたね・・・・・。(Mocca Plantation Coffee=MOPLACOは農協連合ではなく、プライベートカンパニーだったので苦労が絶えなかった・・・・)

日本向けは農薬検査を多岐の項目に渡って行わなければならないので費用がかさむし、そしてうまく出航しても日本での自主検査で検知されたら、シップバック又は第三国への種出・・・・。シップバックになると返金が発生するから、エチオピア政府に輸出業者はマークされるし、ほんとに日本の所為で偉い迷惑・・・・ってな感じですね。

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【現在(2017年以降)のECX外の販売方法】

  • Private(個人/会社所有):小規模生産者で少なくとも2haの農地面積を持つもの。農園(Estate)、水洗所(Washing Station)を含む
  • Cooperative Union(農協連合):主に農地面積(ガーデンコーヒー)が2haに満たない農協(Cooperative)の集合体(Union)

*2017年までプライベートはECXでの流通が義務付けられた。

・・・・・・・

そんなこんなのECXは、表向きは生産者支援、ロジスティクス改善のようにも見えますが、注意深く見ると以下のことが分かります・・・・。

  • ロット形成ができるエリアが限定されている
  • 先入れ先出しが徹底している
  • 契約したらすぐ船積みさせる

これはつまり・・・・・

  1. ロット形成及びグレーディングを単純化して、ロジスティクスを迅速化する
  2. 売上金の回収を迅速化する

の2つの目論見が透けて見えます。

なので、ありていに言えば、

一刻も早く外貨が欲しい(;゚Д゚)

・・・・という事です。

生産者守護ももちろん大きな理由だけど、国的にこっちの方が重大だった可能性があるわけです。だって価格の透明性を出すんだったら、各農協や各地方の主な集積所に政府の管理官などを配置して毎日のニューヨークとディファレンシャルを提示してもいいだろうし、コスタリカのICAFEみたいに国内の水洗所を査察してきちんとした取引をしているかインスペクションを行ってもいいわけです(まあ民族紛争もあって一筋縄ではいかんだろうけど)。

もちろんエリアを政府が限定して管理すれば効率は良くなりますが、例え生産量が5%程度(大体これ位?)とはいえ、既存のスペシャルティーのビジネスを破壊してまでやる必要はないですね。

・・・・・・

それほど国内の状況は待ったなしに近い状況だったのですね。

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この後は皆さんご存じの通り、スペシャルティーロットを望む諸外国からの声とSCAAの働きかけでECXにQグレードに連動したグレードが配備され、今ではECX外で農協やプライベート農園物が購入できるようになってきました。

当時の全日本コーヒー協会

やっぱりポジティブリスト施行とその後のECX発動において、当時の業界内では全協にかなりの批判があったと思います。政府に働きかけのできる商工組合だったのにも関わらず、ポジティブリスト制度の影響を過少評価し、きちんとしたロビー活動を行いませんでした。

当時この制度の危険性を理解し、警鐘を鳴らしていたのは第一回目のCup of Excellence(当時まだCOEの名称はされていなかった)の14人の審査員に名を連ねた旧SCAJ会長、林秀豪先生でした。

誰も林先生の言うことを理解してなかったのです。要は国際感覚と当事者意識の低さが生んだ悲劇の一つでもあったのですね。

この問題が起こった時、業界の人たちは・・・・

「林先生の言うとおりだった・・・。業界は誰も耳をかさなかった」

と、しみじみ言っていました。

・・・・・・人災・・・・・(/ω\)

ファナティックも当時は客先のロースターから「こっちはエチオピアがなくて困ってるんだ。商社なんだから責任もってきちんと持ってこい」とか言われましたが、そのロースターさんも全協に加盟している会員だったりするわけです。よくもそんなこと言えるもんだと思いました・・・・。こうしたところからも業界の絶望的な国際感覚と協会員の当事者意識の低さが伺えましたね。

ただこうした影響は日本とエチオピアだけにとどまりません。

欧米諸国や、他のエチオピア購入国は日本の所為でビジネスが無茶苦茶になってしまった訳です。しかも当事者の日本のコーヒー業界はエチオピアに対してきちんとした支援や対策を行いませんでした(現地農薬検査設備をサポートした・・・・それって日本向けだし根本的な解決になってないような・・・・。)。

もうね・・・・。視線が痛いんですよ、欧米バイヤーの日本に対する視点が・・・・。(/ω\)

「おまえら余計なことした上に、全然フォローしないじゃん、当事者意識低くくね?」(・`д・´)

・・・・みたいな感じになるんですよね・・・・。

当然エチオピアも日本を相手にするのはめんどくさい(日本向けに特別に農薬に気を使ったり検査する必要がある)のプライオリティーは下がりますよね。

まあ今ではだいぶ流通は良くなりましたが、エチオピアの日本に対する印象は冷ややかなものになってしまいました。

めでたし、めでたし(死)

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という事でとんでもないことになったエチオピア残留農薬問題でしたー。

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いい男はアフターフォローを欠かさないのさ・・・・。

相手への気持ちは態度で示すのだ!!!!!!!!

Love Attitude♡

うぽ♡