こんちはーFanatic三神です。去年開催されたWorld Coffee Roasting Championship2019の大会報告しまーす!
・・・SCAJのニュースレターの原稿依頼があったので、ニュースレターに掲載される予定なのですが、いまお忙しいようでなかなか発刊されないため(最新号が去年なんだけど・・・・(;゚Д゚))、情報が無駄にならないうちにこちらで報告しておきまーす!!
それではどうぞー
WCRC2019出張報告
2019.11.14~18
Roast Design Coffee
三神 亮
【目的】
2018年大会に引き続き2019年World Coffee Roasting ChampionshipにおいてJCRCチャンピオンであるロクメイコーヒーの井田さんのコーチ/サポートを行う。
今回は“ワタル株式会社”改め、自身の一個人ロースター”Roast Design Coffee”のコンサルタントとしてコーチ/サポートを拝命。
WCRC2019は前回のイタリアRimini大会から一年を置かず、2019年11月14~18日の日程で台湾、台北市のコーヒーイベント”Taiwan International Coffee Show”の展示会場で行われた。今大会も前回から日程が一日プラスされ、計5日間の長丁場な競技会となった。
11/14 オリエンテーションミーティング
当日はMeet & Greet。総勢23か国の競技者が終結。今回のオーストラリア代表は日本人の坂本氏。WCEのNational(各国内予選)競技会は年々国際的になっており人種多様性を増している。日本でも他国籍の代表が現れる日も来るのではないかと、ちょっと楽しみにしている。当日は競技注意事項、グリーングレーディングのラボ機器、ロギングシステムのCropsterの使用説明、サンプルロースターの練習等がなされる。
11/15 Day 1
Green Grading、Sample Roasting、Open Cupping、Practice Roastingの4種と最も忙しい1日である。
Green Grading
今回は4競技者分のスペースがあり、快適度が高まったようだ。水分密度計が各競技者に割り当てられトータル4台になったが、残念ながら井田さんに渡ったものは不調でカリブレーションが的確でなかったようだ。結果的に該当項目“密度”で減点されていた。
Sample Roasting
Giesenの1kgサンプルロースターで、Single Origin用の生豆1種。Blend用で3種焙煎。これらは後日のプロダクションローストで焙煎する実際の豆になる。この時点ではSingle Originのみが最後まで伏せられていた。各オリジンは以下の通り
Single Origin Kenya AA Ngerwe
Blend#1 Costa Rica Finca Chopin Raisin Honey
Blend#2 Colombia Finca La Maria
Blend#3 Ethiopia Koke(Natural記載だが実際はFW?)
ここでも井田さんはくじ運が悪く、該当サンプルロースターの蓋が閉まらないトラブルに見舞われ1時間半位時間が押した。
Open Cupping
上記のサンプルローストの各検体をカップする。極めて重要な時間である。Single Originはこの時は開示されていなかったので、コロンビアの優良ロットかな?と予測をつけていた。ケニアを疑っている競技者もいた。通年Single Originに採用されるコーヒーはあまりクオリティーが良くなかったので意外であった(毎年なるべくネガティブを出さないような焙煎をする必要があった)。今回はしっかり味を引き出す焙煎を行っても問題ないようだ。
ブレンドの検体はコスタリカのハニーコーヒーがワイニーフレーバーあるものの、クリーンカップに難があり、最終的にEthiopia 80% Colombia 10% Costa Rica10%のPre Blend配合に落ち着いた。焙煎後にハンドピックすることで、エチオピア比率を高くする作戦。
なお今回の3位はCosta Rica 45% + Colombia 10%をPre Blendで焙煎し、残りEthiopia 45%の単一焙煎にPost Blendする変則的なアプローチだった。
Practice Roasting
練習焙煎。ここではSingle Originとは別のコーヒーで練習することになるが、同じオリジンであったり、なるべくキャラクターが近いコーヒーが渡される。焙煎後カラー計測できるのだが、ここでもLightellのアグトロンリーダーが不調で、Calibrationエラーが表示されていたのにスタッフに調整してもらえなかった。今回4台のLightellを使用したが、おそらく競技中に調整がずれてしまった個体も多くあったと思われる。前回は1台を使いまわしだったのでフェアだったが、今回は一応基準個体に合わせてあるとはいえ、ブレが尋常でなかったように思われる。おかげでBlendでのカラーリーディングで大幅に数値の乖離があり、点数が全くもらえなかった。
また練習焙煎のコーヒーはカッピングできないので、この練習時間はただGiesenW6の使い方に慣れるだけのものである。焙煎人としてはカップして検証するのが当たり前なので、このルールは変えてもらいたい。時間がないのであれば初日のラボ練習の方が不要である。オリエンテーション日に練習焙煎をすべきであろう。
11/16 Day 2
焙煎本番初日、Single OriginのProduction Roasting。今回の井田さんの基本プロファイルは以下の通り。
生豆投入量 3kg
投入温度 170℃(豆温度)
カロリー 60%固定(ガス圧。原則最後まで)
排気 90Pa固定(Drum Pressure)
1st Cruck 約188℃(想定温度)
Discharge 198℃(豆温度)
*なお各焙煎用語は下記リンクを参照ください
Giesen W6の新型は“熱しにくく冷めやすい”焙煎機であり、予想以上に上がらない温度に各選手は苦戦していた。余熱を高くとっても、ボトムは80℃位がせいぜいなので、基本的に競技者たちは序盤から高カロリーを当てる必要に迫られた。こういった挙動はワンサイズ上の12kg窯などの焙煎機に似ている。
通常12kg以上の大型焙煎機では初期にカロリーを多く採った場合、後半に火力を絞らないと、Over Roastになりやすいが、W6の場合、1st Cruck手前で火力を絞りすぎると、RORが下がり焙煎が進まなくなる。一見大型焙煎機様の挙動を見せるが、後半に蓄熱が保てないのがトリッキーなところである。
競技者によってはセットポイントの設定ミス(受け渡しの初期設定の排気温度上限が190℃固定されており、競技者は準備時間中に排気温度の上限を上げる必要がある)で排気温度上限が上がらなかったため、焙煎温度を上げられないミスを犯した人がちらほらいた。
また排気を強くとる競技者が非常に多く(皆Drum Pressure 100pa以上で120paあたりが多い)、最大の150paをかける競技者もいた。W6は熱風焙煎機ではないので、余計に後半の温度が上がりづらい状態に拍車をかけていた。
井田さんは基本的に上記のプロファイルで焙煎したが、Color Change(Gold)までの時間を稼ぐため実際は初期に低火力を当てている個所もあった。競技的には完全に想定通りの焙煎ができた。1stバッチは余熱がやや足りていなかったため、カロリー感の良い2ndバッチをハンドピックし提出。
11/17 Day 3
Blend焙煎日。焙煎の基本プロファイルに大きな変更はない。しかし、Blendではあまりクオリティーの良くないコーヒーもブレンド素材に含まれているため、ハンドピックにより、カップクオリティーの良いEthiopiaの比率を高める必要がある。これは2017年のチャンピオン、ルーベンス氏の作戦を参考にしている。ハンドピックの時間が必要なため、できれば1回で焙煎を決め、最低でも2回目のバッチまでにしておかないと時間が足りない。
また今回は大きな番重や予備のバケツがなかったので、作業はやりづらい部類に入る。やはり多くの競技者が丹念にハンドピックを行っていた。井田さんも早々に見切りをつけ、2回焙煎したものの、1stバッチをハンドピック開始。危なげない作業で提出にこぎつけた。
11/18 Day 4
最終日Award Ceremony。結果発表当日。前日にSingle Originの審査員カッピングが行われていたはずだが、混乱があったため、この日にリカップすることになった。そのため発表が遅れ、2時間ほど押しての発表。結果は以下の通り。
1st Russia
2nd Romania
3rd Poland
Cropster WCRC2019
2位のルーマニアはGreen Gradingで激しく豆をこぼしていたので正直意外だった。なお驚くべきはロシアが二連覇したことだ。WCEの各競技会でも同じ国が連続して優勝することは今までなかったと思うが大変な快挙である。なお最近ロシアは東欧、ヨーロッパ諸国との結びつきが強く頻繁に情報交換しているので、大変興味深いトレンドである。筆者もぜひロシアや東欧諸国に訪問してみたいと強く思った次第である。
井田さんは残念ながら13位の入賞となった。カラーリーディングの減点が大きく痛手となった。焙煎は全体的に浅い=Underdevelopmentよりの評価がなされていた(ロースティング欠点上はUnderdevelopment判定されていない。あくまで傾向としてスコアシートから読み取れる)。
【反省】
前大会の世界2位、仲村さんのスコアシートのコメント内容から、改善点として、アフターテイストのドライ感等のネガティブな要素を払拭し、クリーンカップ性能を向上できれば、更なる高得点が狙えるのではないかという予測を井田さんが立てた。
井田さんがなぜこう考えたかというと、世界2位なのに、仲村さんのスコアシートの記述はやや辛口で、SCAAをもとにしているWCRCのカッピングスコアシートで、評価がよかった方のBlendでも総合で80点に満たなかったからであった。
今回“フレーバーを強める焙煎パターン”と、“バランスよくクリーンカップを重視する焙煎パターン”の2つを井田さんと検討し、上記の理由から後者の方を採択した。
なお前者のパターンは、前半火力(ガス圧)70~75%を1st Cruck手前までかけ、Development Phaseで50%に下げるというものだった。
デブリーフィングやスコアシートから読み取ると以下の要点のいずれか、もしくは全てを満たせば、評価されたのではないかと思われる。
- Dischargeの温度をもう少し高めにする。
- 固定火力を70%で推移させる
- 前半75%でDevelopment Phaseで60%に落とす
1.に関しては、優勝者のロシアのアーセニー氏もSingle Originで焙煎を失敗し、少し浅くなってしまったとのこと。また2位、3位のカップもとったが、クリーンさに欠けるものの、フレーバーの強度はそれなりにあったため、ややクリーンカップを犠牲にしてもフレーバーを印象付けるカロリーの当て方が必要であるように思われる。202℃で上げても良かったか?
2.帰国後の井田さんのコーヒーをカップすると、クリーンカップだがフレーバーの印象、強度が弱かったため、もう少しカロリーを与えても良かったかもしれない
3.ロシアのアーセニー氏は前大会の仲村さんの焙煎を参考にしたようで、前半はダンパー締め気味で高火力であった。それゆえ前半に積極的に高カロリーを与えても良かったかもしれない
*クリーンカップや苦みに関して
フレーバー/甘さ優先で、わずかな苦みは許容される傾向が感じられる。微かにOverdevelopmentが最近のトレンドか?他の競技会でも、例えばWBC等では苦みは必要なものとされ、苦みを加味した味のバランスが評価項目となっている。クリーンカップについてはWCRCの評価項目にはないが、フレーバーや甘さが明確であればクリーンと言えるといった解釈がなされているようにも感じる。
ただ従前のごとくOver Roastは即NGなので、ほんのわずかにOverへの線を越えたぐらいの極めて際どいラインを攻めなければならないようだ。ややアンクリーンでもフレーバー印象の強いものが、総勢23か国の中のカップで目立つことができ、審査員の記憶に残りやすくなるものと考えられる。
【最後に】
デンマークの有名ロースター“April”の競技者はBlendの焙煎が終わった後、大きなガッツポーズをとり、まるで優勝したかのような自身と喜びに満ち溢れていた。結果としては順位が振るわなかったのだが、自分の思い描く理想的な焙煎ができたことに大きな喜びと充実感を感じていたのだと思う。競技会なので、自分が理想とするものが必ずしも評価されるとは限らないのだが、各国の競技者は思い思いの焙煎を持ち込んできており、WCRCはまるで自分自身のスタイルを世界にむけて“どうだ!!”と発信するような、とても躍動感のある競技会だと毎年感じる(ギャラリーからは何をしているのかが全くわからないのが難点だが・・・)。
今回の井田さんのプロファイルも、火力(ガス圧)がほぼ終始固定という今までにない斬新な手法であったと思う。もちろん結果は出なかったのだが、ほんのわずかの差で優劣が決まるWCRCではいかなる焙煎アプローチも決して無視できない重要なヒントがちりばめられているのだと改めて強く感じた。
次の大会は今回の反省と、今までの日本チャンピオン達のバトンを次のチャンピオンに託すべく努力していく所存である。また本稿がその一助になれれば幸甚である。
Roast Design Coffee
三神亮