2022.06.22~25

ローストマスターズ委員

Roast Design Coffee

三神亮

2019年から約3年ぶりとなるWorld Coffee Roasting Championship。ヨーロッパにおけるコロナの状況も落ち着きを見たが、当初の開催地であったポーランド、ワルシャワはロシアのウクライナ軍事侵攻における難民の流入が多く、急遽同日でミラノ会場にスライドすることによってWorld of Coffeeが開催されることとなった。

今回の日本代表は奈良県でKoto Coffee Roastersを営む阪田正邦氏。2019年に日本チャンピオンになったがコロナによって3年越しの世界大会出場となった。三神は今回で6度目のコーチとして随行した。

KOTO COFFEE ROASTERS

https://koto-coffee.shop/

6/21(大会前々日)

WOCミラノ現地入り。17:00よりミラノ市内のSTRONGHOLD社手配の会場にて競技者向けの練習焙煎ができるという事で現地へ赴く。4ロット程を焙煎。翌日の9時からがオリエンテーションとなる。STRONGHOLD S7Proは基本的に初期火力を強く取らないと焙煎が進まないタイプの焙煎機。練習ロットのテイストはしっかりしているものの焦げのようなニュアンスが残り、プロファイル設計においては課題が残る形となった。

翌日はオリエンテーションで、下記の競技次第となる。

【WCRC2022競技会の構成】

  1.  オリエンテーション
  2.  ラボ実技(生豆鑑定:任意)
  3.  サンプル・ロースト
  4.  プラクティス・ロースト
  5.  サンプル・カッピング/アグトロン計測
  6.  プロダクション・ロースト
  7.  審査員カッピング
  8.  競技者カッピング
  9.  アワードセレモニー
  10.  デブリーフィング

6/22(大会前日)

    Orientation Meating

今年度のWorld Coffee Roasting Championship2022では総勢22名の参加者があり、コロナ過中の開催であるにも関わらず、前大会とほぼ変わらずの競技者の参加となった。なお前回は23名。

戦火の中、ウクライナ代表も出場しており、一際大きな声援が上がっていた。

大会会場は駐車場を利用した形になっていて半分野外環境だった。日程途中には天候が崩れ、雨が降っていた。窓で遮蔽されている訳ではなくて外気が解放されていたので(若干雨風が吹き込むことがあった)、あまり良い焙煎環境とは言えない状況だった。

【競技用機器】

  • GIESENW6(プロダクション・ロースター)
  • STRONOGHOLD S7 Pro(サンプル・ロースター)
  • Cropster(ロギングシステム)
  • Lighttells
    • MD500(水分/密度計)
    • CM100(アグトロン計)
  • COMPAK PK100 LAB(グラインダー)

本番の焙煎であるGIESENは今回5台、STRONGHOLDは4台設置され、少し規模が大きくなった。なおGIESENについては一見モデルの大幅な変更はないように見えたのだが、結果的に以前のタイプと温度計表示がかなり異なる印象あった。サンプル・ロースターについては、前回は半熱風式の物も選べたが、今回はSTRONGHOLDのみの使用に限定された。

また今大会からGreen Grading(生豆鑑定)の採点がなくなり、ラボブースでの鑑定は可能であるが任意参加でも良くなった。

競技者のタイムテーブルもほぼ固定化され、一部は異なるが毎日大体同じ時間帯で作業するようになったので、出席時間の把握がしやすく時間管理が行いやすかった。

プラクティス・ロースト(練習焙煎)については今まで通り、焙煎機の使い方に慣れるのみで、焙煎したコーヒーのカッピングは許されていない。

また今まで別日で行っていた、Single OriginとBlendの焙煎日が同日になり、さらに連続して行うようになった。よって今までよりも1日少なくなった。

今回の質疑応答では多くの時間が費やされ、以下の項目が確認された

【質疑応答】

  • 焙煎開始時の温度
    • クロップスターの自動検知又は、任意の温度でForce Start(強制開始)行う事も可能
  • カッピング・スタンダート
    • メッシュ見開き850μm/線径495μm=アメリカンスタンダード#20(グラインダー:COMPAK PK100 LAB)
    • 14.8gの粉に対して270mlのボウルを使用
    • 湯温は92-93℃
    • 2つのスプーンをリレーしてカッピングを行う(コロナ対策)
    • ブレイクはスプーンを半分まで入れ、手前から奥へ直線的に3回動かす
  • 水質
    • 全体のTDS=126ppm
    • pH=6.8
    • アルカリ性=71ppm
    • 総硬度=98ppm(ミネラルの配分不明)
  • GIESENのデフォルト設定
    • セットポイント190℃
    • 排気圧110pa
    • ドラムスピード=46Hz
  • サンプル・ロースターのデフォルト設定
    • Internal=170℃
    • Tower Drum=165℃
    • Bean Agitation=#10
  • プロダクション・ロースト時の諸注意
    • シングルの競技時間=30分
    • ブレンドの競技時間=60分
    • それぞれの残り時間は持ち越しできない
  • 生豆の情報
    • シングル:Nicaragua SHG EP Limoncillo Washed(水分:11.2%、密度821g/L)
    • ブレンド①:Ecuador Chinchipe Fully Washed Blend(12%, 818)
    • ブレンド②:Kenya AA Kiamwangi(10.4%, 828)
    • ブレンド③:Honduras Copan Las Capucas(11.5%, 838)
    • 練習用:Dummy Coffee(11.2%, 791)
  • プロダクション・ローストのカラーリーディング
    • それぞれの競技焙煎時間内に100gを計量して包装する必要がある

*GIESENのデフォルト設定に関しては排気が以前までの80Paから110Paに拡大変更されていた。

    Lab Practice

今年からGreen Gradingが採点されなくなったため、ラボは任意での参加も可能になった。今回はBlend用のKenyaとHondurasの到着が遅れたため、練習焙煎用の通称“ダミーコーヒー”とSingle用のニカラグア、Blend用のエクアドルの3種の水分値と密度の鑑定が可能。なお、これらの水分値は計らなくても、全ての情報は与えられる。

スクリーン選別はできないが、生豆カラー判定や欠点カウントは任意で行うことが可能。またプロダクション・ローストのクエーカー提出もなくなった。

またこの生豆サンプルは焙煎サンプルも兼ねており、ここでブレンドしてプレミックスサンプルを作ったり、この時点でハンドピックを行う競技者もいた。

6/23(大会初日)

                Sample Roast

2日目の最初の実技は4種類の課題豆のサンプル焙煎を行う。使用焙煎機はSTRONGHOLD S7 proでこの機種は“熱風温度”、“ハロゲン灯出力”、“豆攪拌”の3つが変更可能。阪田さんは300gの生豆を投入。3つ全ての数値を高めに設定し、中後半にハロゲン灯の出力を減じるプロファイルで焙煎を行った。攪拌はやや回転を落として終始#8に設定(デフォルト#10)。

結果として煎りムラが発生したため、今後の課題として練習とプロファイル考察を重ねる必要がありそうだ。

                Open Cupping

サンプル焙煎から約30分後にカッピングを行う。

各サンプルの煎りムラが多いため、阪田さんの提案により、適切な焙煎度合の豆をピックしてカッピングする作戦を取ったが時間がかかってしまった。またアグトロン計測はこの煎りムラでは厳しいので、次の練習焙煎のサンプルを計測することにした。

                Practice Roast

練習焙煎では10分の準備時間と、40分の焙煎時間が与えられる。ここではあくまでも焙煎機の操作に慣れるための競技なので、渡されるコーヒーは本番のSingle Originに似た生豆(ダミーコーヒー)を使用して焙煎を行う。またこの焙煎サンプルのカッピングは許されていない。

焼豆は表面が滑らかで、それほど引き締まったアピアランスではなかった。欠点豆の混入もややみられたので、それほど品質の高いコーヒーではないことが予想された。阪田さんはここで2バッチ焙煎を行ったが、焙煎途中でCrosterのシステムに不具合が出たため、焙煎をやり直すことになった。この焙煎の後40分後に練習焙煎のアグトロン計測を行った。

この後はホテルに戻りSingleとBlendの焙煎計画を記入、またプラクティス・ローストで行った焙煎ログのうち、当初の想定に近い物をリファレンス(実際の焙煎時のバックグラウンド)に選ぶ。WCRCの中ではこの中日が最も過密スケジュールとなるまさに山場となる。

6/24(大会2日目)

    Production Roast

午前8:30までにSingleとBlendの焙煎計画書を提出。

【プロファイル概要】

  • 投入量2.5kg
  • 排気85Pa固定
  • 回転数45Hz固定
  • 投入温度190℃
  • ボトム~160まで4:30程度かけるように火力調整
  • 160℃から火力70%
  • 190℃から火力50%
  • 203.5℃終了
  • トータル8:10秒程度

阪田さんとの3年に及んだ検証の過程から、今回様々な項目を一つずつ吟味することができた。キャラクターをはっきりさせるため今までの投入量を3kgから2.5kgへ減じた。排気は圧を掛け過ぎるとテイストが淡泊になりIntensityを失う事から85Paに設定。GIESENはPIDで自動制御するので後半に特に排気圧の変更は行わない。回転数はやや速度を落とし、伝導熱を若干増やすことによってテイストのIntensityを強化することにした。投入温度はクリーンカップさを保つ事と明るさを付与するために190℃で落ち着いた。初期の焙煎進行が早すぎるとかなり酸が強く軽くなりすぎてしまうため、160℃までは4:30程度の時間を掛け、その後は70%の火力を掛けることによってフレーバーを発達させる。190℃で50%の火力に減じて質感と甘さを構築。203.5℃で深すぎず浅すぎないポイントで煎り止め。

以上の作戦だった。

厳密なColor Changeと1ハゼを特定するのは難しく、また作業的にもあわただしいので、排気RORの動向から火力変更の想定ポイントを160℃と190℃に設定した。これにより作業はスムースになった。

評価の適正焙煎レンジに入っていても、何かしら目立つ要素がないと22カップの中に埋もれてしまう。今回は適正なレンジに入りつつも、フレーバーあって酸味がポイントで効いているテイストバランスを狙った。

しかし今回のGIESENは日本国内で練習していた物と熱量感が異なり、203.5℃では結果的にかなり浅かった。阪田さんも排出時にいつもより浅かった印象を持ったとのこと。

・・・・・・

プロダクション・ローストも今回は日程が圧縮されており、Single:30分、Blend:60分を連続して行う。なおそれぞれの競技時間は持ち越しができないようになっている。しかし、カテゴリー間ではGIESENの焙煎機の予熱設定をデフォルトにリセットする必要がなく、競技者の任意の設定が可能になった。これにより今年はSingle、Blendどちらを先に焙煎するかなどの戦略性が生まれた。

阪田さんはそれぞれの焙煎を1バッチずつ行い、残った時間をハンドピックに充てることにした。日本での練習が功を奏し、時間に十分余裕のある作業を行うことができた。Blendで使用される生豆のパターンはほぼ例年通りであったためKenya 80%、Ecuador 10%、Honduras 10%と言ったアフリカ系比率を高める配合を採用した。

【WCRCの過去大会からの出題傾向】

Single Origin

前大会の井田さんの時(ケニアだった)を除けば、ここ最近は大体中米の低~中級スペシャルティで個人的な所感では80点台程度のかなりベーシックな物が拠出されることが多い。これはネガティブがやや存在するコーヒーに対して、どのようにそのネガティブに対処するかを試す意味合いがあるようだ。

今回のニカラグアはナッツ臭や未成熟等のネガティブが現れており、酸はシンプルでフレーバーに特筆すべきものはないロットだった。

Blend

3銘柄の1つはアフリカ系でフレーバーが良好なものである場合が多く、それ以外の2つのコーヒーは何かしら問題がある事が多い。中南米系のナチュラル(又はハニー)とウオッシュドの組み合わせなどはその典型例と言える。これら2つのコーヒーが持つネガティブを抑え、アフリカ系のロットからもたらされる良好な部分を如何にブレンドの中で表現するかが課題のようだ。よって配合は8:1:1になることがほとんどである。

今回はケニアが良好な酸とフレーバー、甘さを持っていた。エクアドルはパストクロップでウッディーフレーバーと微かにフェノール臭があった。ホンジュラスは酸が明確であるものの、やや渋さや青さを感じるロットで何かしら疑問の残るロットだった。(これらの生豆キャラクターは大会用に意図的に選択されている)

6/25(大会最終日)

                Award Ceremony

最終日は審査員カッピングと競技者用カッピング、そしてアワードセレモニーが行われる。

今までの審査員カッピングではSingle、Blendとも別日に行うのが通例だが、今回は圧縮日程なのでカッピングも連続で行う。この審査員カッピングの後に競技者カッピングとなる。いつもは二重コード化されてどれが誰のカップかはわからないはずだが、結果として、スコアシートのナンバーと一致していた。

阪田さんの所感では浅煎り~やや深めの物もあったが、多くは中煎りのレンジが多かったとの事。

                結果

優勝:オーストリア            Felix Teiretzbachaer

2位:ノルウェー              Simo Christidi

3位:インドネシア             Wisnu Aji Pratter

4位:ギリシャ       Alex Nerantzis

優勝は前回の台湾大会で20位だったFelix氏が前大会の雪辱を果たした形になった。2位は毎度顔なじみのノルウェー代表Simo氏(Solberg & Hansen)だが、惜しくも優勝を逃した。3位にインドネシアのWisnu選手が入賞しているが、生産国の代表で上位入賞するのはおそらく今回が初めてだと思われる。なお今回は4位までトロフィーが授与された。

我々の成績は残念ながら振るわなかった。ロースティング・ディフェクトでUnderdevelopedの判定がなされており、各項目の点数が上がらなかった。以下デブリーフィングより

  • Acidity:浅いことによってシャープな酸味が出ている
  • Body:マウスフィールが弱いため、アフターテイストのフレーバーが消滅
  • Aftertaste:浅いことによる渋みの発生(この場合は悪い意味での“Tea Like”と形容された)
  • Sweetness:甘さの発達度合いはSweet Grainでの判定
  • Balance:甘さと質感が伴っていないことによるハーモニーの喪失
  • Cup to Profile:上記の各項目が振るわないため、Cup to Profileの整合性を著しく欠いてしまった

特に②番目のボディーとアフターテイストの項目を関連付けていることが印象的である。“粘性がないとアフターテイストがなくなる”という見解になっている

前回の台湾大会での井田さんのスコアシートからのフィードバック(焙煎が浅いという指摘)から、終了温度を高めた(前回198℃⇒今回203.5℃)が、結果として浅いレンジから脱却できなかった。アグトロン値も100を超えてしまっていたため、逆に前回の井田さん(WCRC 2019)よりも浅く、Underdevelopedが強い状態になってしまった。

日本での練習ではこれほど浅くなってはいなかったが、やはり現地の焙煎機の熱量状況を確認の上、しっかりDevelopできるようなアプローチや防衛策を準備すべきであった。

個人的な感じからすると、それまでの3mmプローブ(温度計の針)からさらに細いものになったかのような、かなり大きい温度感の乖離を感じた(実際の大会実機のプローブ径は変更されていない模様)。もしくはワンサイズ大きい15kg窯のニュアンスにも近い印象がある。もしプローブ直径に変更がないのであればドラム内の熱量環境が現行モデルと大きく異なっていたのだと考えられる。

今年の優勝者となったオーストリアのFelix氏の終了温度はSingleが205℃でBlendが207℃であり、これは前回の優勝者であったロシアのArseny氏の200.9℃と203.9℃よりもかなり高い。もちろん焙煎の熱量行程や排気、ドラム回転数といった諸条件で同じ温度でも発達内容は異なる物になるが、今回の大会ではおおむね205℃~210℃程度のレンジが多かった印象があるので、前大会より高い終了温度のレンジは新型GIESENの今後の参考値として有用であるように思える。

これにより以下の2点が推測される。

  • 焙煎機の表示温度が今までのモデルとは異なり高めに表示されるモデルだった
  • 評価の対象となる焙煎レンジそのものが深い方向へシフトしていた

上記のいずれか、もしくは両方であることを推測するが、優勝したFelix氏のアグトロン数値を見るにおそらく①の可能性が高いと思われる。しかし、これはあくまで個人的な憶測の域を出ない。

今回からプロダクション・ロースト豆の返却が廃止されたため、実際の焙煎豆の状況を確認する事ができなくなってしまった。当然チャンピオンの豆も分けてもらうことができなかったのでこれは残念な措置である。

WCRCの初期においては浅煎りの明るい酸味が選好された時期もあるが、現在では甘さとボディーの発現が重視されているのはスコアシートからも明らかである。

阪田さんのプロダクション・ローストでの作業は大変素晴らしく、焙煎作業そのものも、その後のハンドピックなどに至ってもとても安定感のある、他の競技者にもぜひ参考にしていただきたい競技内容だった。

この報告がJCRCにチャレンジする競技者や、その次の世界WCRCにチャレンジする日本チャンピオンへの一助になれれば幸いである。

以上

【以下、可能であればWCEへ要望したい事項】

  • プラクティス・ローストのカッピングを復活させてほしい
    • アグトロン計測ができても実際のカッピングで窯の特性を見極めるのはプロとして当然。サンプル・ロースターと本窯はメーカーも違えば設計も全く異なるものなので、テイストの偏差や乖離は大きい。練習焙煎のカップは復活させるべき
  • プロダクション・ローストの豆の持ち帰りを許可してほしい
    • 今回プロダクション・ローストの焙煎豆の持ち帰りが禁止されてしまった。これにより結局最後まで競技者は自分の焙煎したコーヒーの品質を確認することができない事態に。これは通常のロースターやお店ではありえない。多くのロースターでは梱包/販売前に品質確認のカッピングを行うことが多い。それができないことはおかしいし、スコアシートとすり合わせることで競技者へのフィードバックがより明確になるはず
  • JCRC国内クリック選手権問題・・・
    • WCE(World Coffee Events)から公正な参加基準を行うように要請されているため、JCRC(Japan Coffee Roasting Championship)で予備審査や試験等を行うことができない状態になっている。JCRCでは費用や会場の広さの問題等から、開催規模を大きくすることが難しい現状がある。現在クリック早い物勝ちエントリーになっており、過去の上位入賞者や実力者が漏れてしまう事が発生しているため、国内大会に裁量を持たせ、予備審査や競技会参加における取得必須科目等の制定などを許可してほしい