こんにちはTotally Dissolved Sorrow三神です(溶けた悲しみ)。
以前にTDS=Total Dissolved Solids(総溶解固形分)と、EY=Extraction Yield(収率)の話をしました。
TDSは液体の濃さを表し、EYはコーヒーの成分がどれだけ水に移動したかの値でしたね。
【収率計算式】
EY% =
抽出された出来上がりコーヒーの液量(g)×計測TDS(%)÷使用コーヒーの粉(g)
いちいち計算すると面倒なので、VST社が出しているIOS用のアプリがあるのでDLすると楽ですよー。
VST
これで抽出状態はわかる・・・・
しかし・・・・
・・・・
・・・・
数値で濃度、収率が分かっても肝心なのはその味!!
という事で、今回は実際にPractical(実践的な)な視点で抽出状況の分析をしてみようと思います。
それではいってみよー!
なんか変な?Golden Cup Standard
SCAAのHPでは一般的なBrewed Coffeeについて、推奨の濃度/収率が以下の通りに要約されています。
“Coffee shall exhibit a brew strength, measured in Total Dissolved Solids, of 11.5 to 13.5 grams per liter, corresponding to 1.15 to 1.35 “percent” on the SCA Brewing Control Chart, resulting from a soluble extraction yield of 18 to 22 percent*.”
SCAA
https://sca.coffee/research/coffee-standards
“SCA Brewing Control Chartに従い、コーヒーの強さはTDS濃度として1.15~1.35%の範疇であるべきで、結果としてEY収率は18~22%となる。”
【SCAA Brewing Control Chart】
・・・・だそうです。
ファナティックが2015年にサンフランシスコのSightglass Coffeeに訪問した時、バリスタトレーナの方はEY23%を目標にグラインダーのセッティングなどを行っていると言ってました(そん時はEK43)。
上記のSCA Brewing Control Chart上ではEY18%未満は“未抽出”でEY24%以上は“過抽出”にあたると定義されています。
・・・・・
ん?でもこの範囲ってかなり味強くないか???(゜-゜)
・・・・・
何故こう考えるかというと、例えばBrewersの大会とかでトレンドをリサーチすると、大体TDSは1.2~1.3%位の範疇に入ります。まあ、これはいいですよね、上記SCAAの要約通りのレンジです。
しかしBrewersの大会とかにハンドドリップなんかで出ると、Brew Ratio(粉とお湯の割合)は皆さん大体1:15位のレンジのレシピに収めるケースが多いのではないでしょうか?濃い目にしても1:14とか・・・。エアロプレスとかも加水レシピでなかったとしても基本、粉は多めです・・・。
BR 1:15だと、例えば粉を20g使った場合は300gのお湯を使うことになりますね。
では例としてBrew Ratioを1:15にして、TDSを濃い目にして1.3%の濃度を上記のレシピで達成したとします(VSTの計算アプリだと自動的に粉に吸われる水の量を差し引いて計算してくれます♡)。
するとEY収率は・・・・(VST社の計算アプリ使用)
EY=16.99%
あれ!?ぜんぜん未抽出じゃん!!(;゚Д゚)
じゃあ薄めのTDS1.2%だと・・・・
EY=15.67%
当たり前だけどもっと下がったぞ!!(/ω\)
・・・・・・・・・
じゃあここでSCA Brewing Control Chartに入るようにセッティングするには、
- 粉を細かくする
- お湯の温度を上げる
- お湯と粉の接触時間を長くする
- お湯と粉の接触回数を多くする
- 圧力をかけて抽出する
以上のいずれか、もしくはいくつかを組み合わせて抽出する必要がありますね。
じゃあ手っ取り早く温度をあげてメッシュを細かくしてみました。
結果は・・・
・・・エグ!!
・・・苦が!!
まあ予想してましたけど、Brew Ratio(粉とお湯の割合)とTDSの両方から考えても、EY抽出率上げるのは限界がありますよね。
では続いて、参考までにRoast Design Coffeeのエスプレッソを見てみたいと思います。湯温は90℃で、抽出圧力を落として今は5気圧位にしています。苦みを低減していくとどうしても90℃以下にせざるを得なくて、圧力も下げないと酸がアグレッシブでストラクチャーが強すぎたからです(まあうちのローストが浅いからだけどね)。
そしてRDCのレシピは大体22gの粉に対して45g(出来上がりの重量)の抽出液量です。TDSを測ったら7.2%と出ました。
これを同じくVSTの計算アプリ“Espresso Mode”でEY収率を計算してみました。すると・・・
EY=14.7%
わあ!低い!!これも超絶未抽出ですね。
んー。これはどう考えたらいいのかというと・・・。
・・・・
もはやSCA Brewing Control Chartが意味をなさないという事です!!
がびーん( ゚Д゚)
簡単に言うと時代遅れなんですね(*注意!!現在のトレンドや競技会から見た場合)。もう数十年もこの基準使ってるし・・・・。
まあ、Brew Ratio 1:25を推奨しているロースターさんもいるけど(予測EY約27.8!!!(; ・`д・´))・・・・。過抽出側ってあんまりないと思います。
一般的に浅煎りは抽出効率が良くないのですが、こうなったのはおそらく原料であるコーヒーの品質が昔に比べて格段に向上し、酸やフレーバーの種類が増えて明確になったからだと思います。フレーバーが分かりやすく、かつ出やすいのでDevelopment(焙煎度合い)が浅くなって行き、さらにローストが浅いと焦げや苦みの等のOff Flavorの付着リスクが低くなるため、以前に比べてEY収率を高くする必要がなくなったのだと思います。
でもよくよく考えてみると深煎りでも、ネルとかだと粉が多めの濃い(恋♡)レシピになるので、ますますSCA Brewing Control Chartに当てはまらないですね・・・。
(フレンチプレスとかメタルフィルターなら濁るからならいけるかな(汗)?)
それでいいのか?SCAAカッピングプロトコル
またさらにSCAAのカッピングプロトコルに言及すると・・・、
- ロースト度合い=Agtron 63
- 水の硬度=50~175mg/l
- お湯の温度=92.2 –~94.4℃
- 粉の挽き目70~75%の粒子が#20を通過する程度(0.833mm)
・・・になっていますが、これもちょっと現状にそぐわなくなっています。このままやると味と刺激が強いので、舌慣らしをしてさらに温度が下がってこないと、なかなか微細な特徴をとらえるのは困難ですね。
まずアグトロンですが、WCRCの焙煎大会で選手が提出する焙煎度合いは大体80~90位です。
水の硬度は幅がありますが、硬水(121mg/l以上)で出すバリスタはあんまりいないでしょうね。
お湯の温度は“カッピングの場合は”高い方がいい(酸が明確に形成される)のでこのままでもいいと思います。
粉の挽き目(メッシュ)も#20(0.833mm)だと結構細かいですね。ビターな味が最初に来るので、第一印象に惑わされないよう舌を慣らして、時間をかけてカップする必要があります。COEなんかもメッシュは細かいですが、個人的にはもう少し粗くしても良いように思います。
こうして見てみると、いかにも浅煎りに偏った評価だなという意見もあるかと思います。その通りだと思います。しかしカッピングでの評価において、原料由来以外の苦みを除去し、クリーンカップ、フレーバー、酸、甘さを追求した結果、今のような競技会での評価基準に自然形成されたというのが現状の評価基準なのだと思います。(ちなみに生産地で行われるコマーシャルのカッピングの焙煎はサードウエーブ以上に浅いですよ)
なので煎りが深い物については苦みやロースト香等を含めた、別の評価軸を用いた評価プロトコルを形成する必要があると常々思っています。
こうした議論はない訳ではありません。例えばWLAC(World Latte Art Championship)では味覚評価を復活させようか?という話もありました。ラテアートの場合どうしても焙煎が深くないとコントラストが鮮明になりません。なので、焙煎が深いことを前提とした味覚評価を導入するかどうかという議論もあるのです(実現してないけど( ゚Д゚))。
ちなみにRDCではまず飲料の濃さをBrew Ratioで仮設定し、大枠のTDSの範疇内で今度はメッシュ、温度、抽出時間などを調整する事で味の出方をコントロールしています。一般的にTDSはコーヒーの飲料の強さを表し、濃くなりすぎると刺すような口内刺激に変化していきます。反対に薄いと水っぽくなりますね。
TDSはそのまま飲み物のカテゴリーに直結し、基本的に粉とお湯の割合で決定されることが常になっていると思います。
ハンドドリップ<ネルドリップ<エアロプレス<エスプレッソ
一般的にはこの順に液体も濃くなり(例外もあるだろうけど)、そして使用する粉の割合も多くなっているはずです。特にエスプレッソに関しては最近のスペシャルティーではイタリアンスタイルに比べて、粉量の多い“リストレット抽出”がもはやスタンダードですね。
メッシュ、温度、抽出時間等の調整はもちろんTDSにも影響しますが、主にEY側の“抽出効率”に関連が強く、効率が高くなると酸、フレーバー、甘さが増すものの、行き過ぎると苦みが強くなり粉っぽい質感になっていきます。また効率を下げると質感と酸はマイルドになっていきますが、酸が主体的になり、フレーバーが希薄でシンプルになっていきます。
超高性能センサー?人間の舌
ちなみに皆さん、人間の味覚はかなり敏感なのご存じですか?
硬度30mgと100mgの水を比べると、味の違いが結構明確にわかりますよね。
・・・でも実は硬度を%TDSに変換するとそれぞれ0.003%と0.01%でしかないんです・・・・。こんなに細かい誤差は抽出ですぐにぶれますよね!!!?
でも人間はこの違いが分かるのです。だからEY収率が数値的に過抽出でなくても、過抽出成分が溶解してしまったかどうかが人間の舌には分かっちゃうんです(;´・ω・)。
こういった調整はTDSやEYの数字では判別することができないので地道に検証していくしかないですね。
ただ自分の抽出の大まかな位置はTDS濃度とEY収率を計算することで判明するので、あくまでも抽出におけるコンパスとして上手に使ってください♡(ナビ?)。
とここまで書いといて何を言いたいのか?というと・・・・。
まず正解の抽出というのは焙煎を含めて存在しないという事。
それから自分で得た実証を大切にしてくださいという事。
です。(/・ω・)/
そもそもコーヒーの成分は超いっぱいあるので、何が抽出できたかはクロマトグラフィーでもしない限りは判別できません。それでも全ての成分を分析することは不可能なのに、Brew RatioとTDS濃度のみで計算したEY収率で推奨抽出レンジを定義づけしてしまうのは、とんでもなく乱暴な行為だと思います(汗)。
自分的に良いと思えるカップがあったとしても、もっといい物があるかもしれないし、そういう意味ではいろいろ実験してみて、他のロースターさんのコーヒーを飲んでみたり、客観的なデータを得るためにTDSやEYを計算するのはとても大切です(やらないと自己満足になっちゃう)。
でもだからと言って良い抽出だと思うけど、上記のチャートにそぐわないから間違いだという訳ではありません。
まず自分はどういったカップクオリティーのコーヒーを淹れたいのかが重要で、“おいしい/おいしくない”というのはあくまで自分自身にとっての主観的概念です。
ファナティックも長年大会に出ていると、行くたびに焙煎や抽出の味の傾向が変わっていて面食らうことがそれはもう・・・毎年あります。ただプロとして最新の情報やアイディアを得るのは大変重要である上に、いかなるトレンドにもアジャストできる技術を持つことが自分では大事だと思っています。
(自分の軸を維持または更新しながら、新しい、又は受け入れがたい概念を勉強するのはホント大変よ)
なのでぜひ皆様も、自分基準と、その他基準のダブル/トリプルスターダードを持って多様なコーヒーワールドを堪能しましょー!!♡
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教科書通りが正解とは限らないぜ・・・・
いい男は自分の真実を生きるんだ・・・・
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きゃー!!!!!!!!!!!!!♡
かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!( *´艸`)